令和元年度 量子医療研究会 講演2

医療用などの放射性同位元素の応用とその製造方法

九州大学総合理工学府 先端エネルギー理工学専攻 准教授
金 政浩 氏

 講師が所属する研究室の研究対象は基礎(原子核・放射線物理)から応用(エネルギー、医療、宇宙等)にわたる広い範囲をカバーしています。素粒子・原子核反応で発生した高密度エネルギーは、ミクロ粒子(中性子、陽子、イオン等)や光子として放出されます。これらのエネルギーの塊が物質や生体中をどのように移動していくかを正確に知ること(粒子・イオン輸送計算)が、核融合エネルギー開発や粒子線応用分野(粒子線癌治療など)では重要です。放射線の遮蔽、発熱・材料損傷、人体への照射線量等を推定評価する際に行う輸送計算では、粒子線物理工学の知見が必要不可欠となります。量子技術を利用するうえで必要となる重要な基礎的事項について詳しくお話しいただきました。
 本講演会では核医療の今後をテーマにしましたが、これを下支えする基盤技術として、放射線物理工学についてその将来について概説していただきました。講師も核医療分野との連携は常に意識しているところで、今後の幅広い連携により、放射線技術や放射性核種の社会実装の重要性を説明されました。新しい治療用核種としてのα線各種とβ線各種は、飛程が短く正常組織に対する障害が少ないことと、崩壊が早く無害で安定しているものが望まれていますが、現在の技術では核反応を利用して様々な核種を作り出すことができ、今後、がん治療に際しての有効性や副作用に関する検証の体制づくりの重要性を離されました。ただし、核種を含む化合物薬剤の研究開発は様々な制約により遅れていることが紹介されました。
 一方、別の応用分野に目を転じると、今世紀は宇宙利用の拡大が期待されています。人工衛星や宇宙ステーションは、宇宙線と呼ばれる厳しい放射線環境下に置かれており、搭載された電子機器や長期滞在する宇宙飛行士に対する高エネルギー宇宙線の影響を正しく評価することは、安全・信頼性工学の観点からとても重要です。さらに、宇宙線は地球にも降り注いでおり、大気と衝突して中性子やミュー粒子等の2次宇宙線が発生し、地表にも到達しています。これら自然界に存在する宇宙線ミュー粒子を原子炉等の大型施設の非破壊イメージングに利用するための研究開発や、エジプトのピラミッドの内部透視プロジェクトに関するトピックスを紹介していただきました。

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