令和2年度 第3回量子医療研究会 講演1

自動設計と自動合成の融合による医薬候補品の自動探索

産総研生命工学領域 バイオメディカル研究部門
分子細胞デザイン研究グループ主任研究員
石原 司 氏

講師は、1994年に大手製薬メーカーに入社後、一貫してビッグデータ+機能学習+ロボットからなる高分子自動探索システム、いわゆる情報化学システム(Knowledge mining system)の構築に携わってきた。2106年に産総研へ客員研究員として研究の場を移し、2017年から正規研究員として産総研で研究を継続している。テーマは一貫して医薬品研究の自動化である。今回の講演では開発途上にある医薬品候補となる高機能化合物の自動探索技術の概要について解説していただいた。これまでは、人が従来の研究成果を基にして化合物を設計し、合成方法を構築し、化合物の活性を実測・評価し、その性質に鑑みて化合物の再設計を行うというサイクルを回している。しかし、すべてを人が行っていたことから、その労働生産性の向上が喫緊の課題となっていた。開発中の自動システムでは、数万報の論文データ(化合物約4.8億パターン)に基づいて新規化合物を設計し、深層学習を含む機械学習によって化合物の活性を試算する。また、温度や濃度の勾配による反応暴走を回避して事故や健康被害を防止できる多検体対応のフローリアクター装置を化合物精製装置と連動して用いることにより、高能率で化合物を自動合成することができる。現在、上記システムの試験稼働を行っているが、従来の臨床試験化合物に匹敵する化合物の製造に成功しており、今後の創薬研究の飛躍的な効率化が期待される。

 人による医薬品開発では、現状で年間約240化合物が限度であり、いわゆるベテランの勘と経験によったとしても、数100化合物が限界である。開発中の自動探索システムの能力レベルとしては、近年に臨床開発された膨大な医薬品候補のおよそ8割を自動生成することができている。化合物の合成に関して、作業をロボットに置き換えるという機械化が医薬品分野では最も遅れている。数多くの化学反応の中で、主要なトップ15種の反応で、近年に開発された医薬品候補の80%に対応できることが分かっており、自動合成装置の実用により化合物合成の自動化が飛躍的に進む。化合物の評価に関しては、機械学習と機能評価ロボットの連動により、効率的に行うことができる。化合物のアセスメントシステムは古くからあり、自動機の導入によって効率化することが可能となることが紹介された。

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