2025年10月4日
令和7年度 量子医療推進講演会 量子が創る未来
九州大学 システム情報科学研究院 教授
価値創造型半導体人材育成センター長
がん治療の話ではなく電波を利用した「エネルギーハーベスト」技術を紹介。空間にある無駄な電波を集めて電力に変える研究で、スマートフォン充電の可能性も示す。また、九州地域の半導体人材育成の重要性や半導体が日常製品に不可欠で、経済安全保障に関わることも解説する。
ナノとは非常に小さい単位で、ウイルス(約100ナノメートル)以下のサイズが半導体に関係する。最新の半導体は2ナノメートル台で製造されており、北海道の国内工場ラピダスや熊本のTSMC工場で生産中。半導体の微細化により、スマートフォンの性能向上が進んでいる。九州には半導体関連企業が1,000社あり、世界的なシリコンウエハー企業SUMCOや田中貴金属工業も存在。今後10年で九州は約1万2,000人の半導体人材が不足すると予測され、九州大学などと産官学金が連携し「価値創造型半導体人材育成センター」を設立した。高専とも協力し地域全体で人材育成を推進している。
従来は半導体の微細化が中心であったが、現在はアップルやグーグルなど大企業が自社製品に特化したIC設計を行い製造は外部に委託。良い半導体よりも売れる半導体の重要性が増加している。上記の研究センターでは、課題解決型の新価値創造半導体開発と幅広い産業で使える半導体利用者、企業人の育成を三本柱に人材育成に取り組んでいる。
九州大学の教育センターは、従来の半導体設計・製造に加え、経営学や社会実装を学べる新部門を設立し、デザインやビジネススキル、起業教育も取り入れ、他大学や企業、行政と連携している。台湾TSMCと包括連携し、技術者による講義や共同研究、学生への研究奨励金提供も行い、多角的な人材育成を推進している。
九州大学は台湾TSMCとの連携で半導体技術を学ぶ講義を実施している。文理融合のグループワークや企業向け講義も行い、オンラインで無料公開。法律事務所や金融、不動産関係者も受講し知財管理や投資促進に活用。さらに米国名門大学と連携し学生の国際交流やインターンシップを推進し、半導体人材育成と国際競争力強化を図っている。台湾の陽明交通大学やTSMC、ITRIと連携し学生交流を実施。学生は米国のクリーンルームで半導体製造と研究討論を体験し、逆に海外学生も九州大へ招待している。理系学生の育成には最低6年必要で、短期成果を求める企業との認識の違いも強調している。

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電池不要のセンサー研究では、太陽光で家畜を監視するものや、空間の電波を電気に変え体温を測るシステムを開発している。エネルギーハーベストは自然界のエネルギーを利用する発電法で、センサーは発電、計測、データ送信の三層構造。各層の技術を最適化し、状況に応じてセンサーや通信方法を切り替え可能にしている。
大分県九重の農場で、耳標型の太陽光発電センサーを牛に装着し、体温と湿度を測定。夜間の放牧中でも体温を安定的に取得でき、外気温の影響を受けにくいことを確認している。農家の負担を軽減し、病気の早期発見に役立つ可能性があり、現在農学部で研究を進めている。沖縄県のヤギ繁殖支援で、耳標型センサーを活用。ヤギの発情周期が短く体温変動で発情検知が可能になった。妊娠期間は150日で年間2回の実験が可能で、耳から体温データを取得し、発情前の体温低下・発情時の上昇を確認している。現在、これを基に種付けが進められている。
九州大学では、発電所不要の空間に漂う無線電波(RF)を利用した長距離エネルギーハーベスト回路を開発。電波法による送信電力制限を克服する新回路で、交流を直流に変換しセンサー駆動が可能。実験で電波を使い手の温度データをスマホ送信に成功した。無人レジ等で用いられるRFIDの電波も室内に飛んでおり、これを活用している。無線電波を利用し、内視鏡手術で体内の小型クリップを光らせエックス線不要を目指す研究を医学部と実施。電池不可のため、手術室の電気メスが発する電磁波を利用し体内で電気変換する。人体は電波の浸透が難しいが、電気メスの対極板を介した電気回路として体内深部へ電力供給を試みている。半導体素子を2ミリ以下に小型化し、豚での実験で電気メスの電磁波によりLED点灯を確認。屋内ではバッテリーレスでセンサーが稼働し、ユニクロのアンテナで約10m四方をカバー。屋外では福岡タワーのテレビ電波を利用し、最大10km離れても無電池でセンサー駆動とスマホへのデータ送信が可能となった。
医療から離れ、電池不要のセンサーを活用し、老朽化した高速道路や橋、トンネルのひび割れ検知やインフラ管理の自動化を提案している。車両通過時のみ作動する仕組みや、配線困難な発電所の機械状態監視にも応用中である。半導体人材育成と小型エネルギー創出も推進し、関連特許や研究動画も公開している。


九州大学 システム情報科学研究院 教授
価値創造型半導体人材育成センター長
九州大学 システム情報科学研究院 教授
価値創造型半導体人材育成センター長
山口県生まれ。1994年、九州大学大学院工学研究科応用物理学専攻 博士(工学)
日本学術振興会特別研究員(PD)、山口大学工学部電気電子工学科助手、米国マサチューセッツ工科大学(MIT)博士研究員、九州大学大学院システム情報科学研究科助手を経て、現在、九州大学大学院システム情報科学研究院情報エレクトロニクス部門教授
附属価値創造型半導体人材育成センターセンター長、一般社団法人九州半導体・デジタルイノベーション協議会副会長、一般社団法人エレクトロニクス実装学会九州支部副支部長、IEEE Senior member、電子通信学会シニアメンバー。