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2024年10月26日
令和6年度 量子医療推進講演会 量子が拓く医療、未来

物質の第四状態『プラズマ』の多様な応用:半導体・医療・農業

白谷 正治

九州大学 副学長・主幹教授
大学院システム情報科学研究院 教授

物質の第四状態『プラズマ』の多様な応用ということで、半導体・医療・農業という副題でご講演いただいた。

物質の第四状態である「プラズマ」は、物質が低温から高温に変化する過程で、固体、液体、気体を経て、さらに温度が上がると気体中の原子や分子が電子とイオンに分離し、電離気体となります。この状態がプラズマであり、気体よりもエネルギーが高いのが特徴である。自然界には多くのプラズマが存在し、宇宙の物質の約80%がプラズマ状態にある。太陽や星雲、地球のオーロラや雷もプラズマ現象である。プラズマは大きく三種類に分けられる。高温プラズマ(約1億度)、熱プラズマ(数千度から1万度)、低温プラズマ(電子が高温、イオンや中性粒子は室温)。低温プラズマは工業的に広く利用され、表面処理やダイヤモンド膜コーティング、コンピューターディスプレイの製造などに応用されている。このように、プラズマは多くの産業で重要な役割を果たしている。

プラズマと半導体に関する解説では、経済産業省が日本の半導体産業の拡大を目指していることが述べられてた。2030年代には、世界の半導体産業規模が現在の2倍の1.5兆円に達すると予測されており、経産省は10年で3倍を目指している。1980年代には日本が世界の半導体市場の50%以上を占めていたが、現在は約10%に減少している。半導体産業は急速に変化しており、垂直統合から水平分業への移行が進んでいる。水平分業は、異なる企業が協力してリスクを軽減するモデルであり、日本はこの流れに遅れをとっている。一方、日本は半導体製造装置と材料に強みを持ち、製造装置の世界シェアは26%、材料は90%以上を占めている。九州は「半導体アイランド」として知られ、面積と人口は日本全体の約10分の1であるが、半導体シェアは4%である。台湾の20%に対し、九州には成長の余地がある。九州には工業用地、電力、水、労働力が揃っており、特に阿蘇地域が適している。今後10年間で日本全体で4万人の半導体人材が必要とされ、九州でも9,000人が求められている。地元の大学や高専が人材育成に取り組んでいる。

最先端半導体の開発が進む中、特に注目されているのはシングルナノレベルの高性能半導体である。米国のインテルや韓国のサムスンも開発を行っているが、実際に高品質な製品を製造できているのは台湾のTSMCのみで、同社はほぼ100%の市場シェアを誇っている。この半導体は最新のスマートフォンや生成AI用デバイスに不可欠であり、インテルやサムスンは2番手、3番手に位置しているが、実際には十分な性能を発揮できていないのが現状である。

TSMCが九州に工場を設立したことは、日本にとって非常に重要な意味を持つ。スマートフォンの出荷台数は2019年時点で12億台に達し、その中には多くの日本製部品が使用されている。例えば、村田製作所は世界最小の微小コンデンサを製造しており、昭栄化学工業はその材料であるNiペーストを供給し、世界シェア40%を誇る。また、NANDフラッシュメモリーは日本発の技術で、現在はサムスンやマイクロンが製造し、キオクシアも頑張っている。カメラ素子に関しては、ソニー製が高性能であり、日本製は他国製品に比べて優れている。

半導体は導体と絶縁体の中間的な性質を持ち、トランジスタとして機能する。集積回路には約10億個のトランジスタが含まれ、1センチ角のチップには数十億個が搭載されている。これらのチップは年間100億個出荷され、約70%がプラズマプロセスで製造されている。集積回路の工業的な製造方法には、日本人の細川直吉氏が1974年に発明したプラズマエッチング技術が大きく貢献している。

現在の半導体技術は、小型化と三次元化の2つの方向で進化している。最先端は3ナノメートルから2ナノメートルに進んでおり、将来的には1.5ナノメートルに達する見込みである。トランジスタを小型化することには限界が近づいているため、縦に積み重ねる技術が進められている。現在は250層の積層型が実現されており、将来的には1000層に達する可能性がある。日本の半導体産業が強化されることを期待し、専門家の育成が重要である。

プラズマ技術は医療と農業の両分野で多様な応用が期待されている。プラズマには多くの種類があり、その特性によっては有害にも有益にもなる。医療分野では、ウイルスの不活化が比較的容易に行えることが知られており、最も厄介なプリオンからエンベロープ型ウイルスまで、プラズマによって不活化が可能である。また、皮膚炎や創傷治癒において、適切なプラズマを照射することで治癒が促進されることが示されている。この技術は元々日本のアイデアであるが、臨床のハードルが高く、現在はドイツで実用化されている。さらに、プラズマは骨の再生を早める可能性も研究されている。

再生医療においては、プラズマを用いて細胞の分化プロセスを制御する実験結果が得られている。細胞の増殖を促進する効果も確認されており、プラズマ止血技術も注目されている。これは、傷に瞬時にかさぶたを作る技術で、日本の産総研が開発し、世界標準規格に申請中である。また、プラズマを用いた遺伝子導入技術もあり、従来の薬剤による方法に代わる新たな手段として期待されている。

農業分野では、窒素循環の破綻が問題視されている。従来のハーバー・ボッシュ法による窒素肥料の生産は大量のCO₂を排出し、気温上昇を引き起こし、農業生産量を低下させる悪循環を生んでいる。この問題を解決するために、プラズマ技術が注目されている。農業廃棄物を肥料にする試みが進められており、プラズマ照射によって有機的な窒素肥料が生成され、生産量の向上が確認されている。また、プラズマを種子に照射することでDNAに変化をもたらし、品種改良の効果が得られることも示されている。

さらに、プラズマ技術はエネルギー効率の向上にも寄与する可能性がある。従来の方法では理論限界に達している窒素固定が、プラズマを用いることでより高い効率が期待されている。日本は化学肥料の自給率がほぼゼロであり、プラズマ技術によって農業廃棄物から窒素肥料を生産することができれば、問題の改善が見込まれる。

最後に、プラズマと放射線や重粒子線の違いについても触れられてた。プラズマは細胞外で活性化学種を生成し、細胞が必要な分だけ取り入れるため、細胞が死ににくい特性がある。一方、放射線は細胞を突き抜けるため、細胞内外で化学物質が生成され、細胞が死ぬリスクが高まる。この特性を利用してがん治療が行われているが、プラズマの特性を活かすことで新たな治療法の開発が期待されている。

地球温暖化により、米の収量が減少し、九州では一等米比率が低下している。これは登熟期の高温、特に30度以上が影響しており、高温で収穫された米は発芽が遅れることが分かっている。この原因はDNAに高温ストレスが生じるためである。しかし、種もみにプラズマを照射することでストレスが軽減され、収量が増加する。稲妻が米の成長を促すことが古くから知られており、プラズマの特性を活用する研究が進められている。プラズマの社会的な利点が多く紹介された。

講師のご紹介

白谷 正治 先生 ()

九州大学 副学長・主幹教授
大学院システム情報科学研究院 教授

プロフィール

九州大学 副学長・主幹教授
大学院システム情報科学研究院 教授

略歴

福岡市で生れ育つ。九州大学で工学士・工学修士・工学博士を取得、同大学で助手・准教授を経て2006年より教授。
2022年より副学長を兼務、論文数300以上、h-index=49。
専門は半導体や農業などへのプラズマ応用、プラズマ農業分野で論文引用数世界1位。
2023年に日本人現役教授として初めてPlasma Materials Science Hall of Fame Awardを受賞。時短手抜き料理が趣味。

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