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2024年10月26日
令和6年度 量子医療推進講演会 量子が拓く医療、未来

放射線によるDNAの傷から体を守るしくみ

松本 義久 氏

東京科学大学 科学技術創成研究院ゼロカーボンエネルギー研究所 教授

松本先生は鳥栖市出身ということで、小学校時代の恩師のことや学校生活の思い出についてご紹介があった。鳥栖というのは鳥の巣のこと、将来には放射線・量子の巣、つまり放射線や量子の科学技術や医療を育てて羽ばたかせる街に、さらには科学の巣、量子の巣となる街になってほしいとの思いが語られた。

話題の中心は生命、そして、私たちの体とDNAがいかにすごいものであるである。講師の専門は放射線分野であり、その目的は放射線を使って豊かなQOLを実現することにあるということで、医学は勿論、様々な産業や農業に非常に役に立つことが期待されている。

 生命というとDNAが根幹にある。一般に放射線が怖いものであるとの認識は、放射線がDNAに傷をつけるからであり、その結果として人体に影響を及ぼす。DNAは非常に長い特異な分子である。ヒトの細胞1個に含まれるDNAの長さは約2mであるので、体の中の細胞(30兆個)のDNAを拡大せずに全部つなげたとすると、約600億キロに及ぶ。このように特異な長大なDNA分子であるので、放射線が持つ原子と原子のつながりを切る性質によって、この長い鎖のどこかで切れたり、傷ついてしまう危険性が非常に高いことがわかる。放射線が怖いということの背景になっている。

DNAの重要性として、1つ目はDNAには生命の設計図、細胞の構造や機能をつかさどるたんぱく質やRNAの作り方が書かれていて、他の分子に比べて非常に重要である。二つ目はDNAは一つの細胞当たり同じものは1本しかなく唯一である。3つ目はDNAは受け継がれる分子である。細胞が分裂するときに、正確に同じものが二つ作られ、すなわち複製される重要な分子である。4つ目はDNAは先に示したとおり、特異的に極めて長い分子であり、長い鎖のどこかで切れてしまう危険性が非常に高いというリスクを有している。

次に、DNAが放射線による損傷を回避する仕組みについて、講師が映画の製作に関わったシン・ゴジラを例に、ゴジラが放射線に途方もなく強い理由を生命科学的に考察され、メカニズムが解説された。生物は本来、DNAの損傷をリカバーする仕組みを持っていると考えるのが正当である。DNAの傷は自ら直す仕組みが備わっており、DNA修復と言われている。また、DNAの傷が治せないほどひどい場合には、その細胞が自発的に死ぬ。これはアポトーシスとかプログラム細胞死と呼ばれている。細胞が自ら死ぬことによって、がんや子孫への影響を防ぐ仕組みとなっている。

DNA修復や放射線でどうしてアポトーシスが起こるのかのそもそもの説明がなされた。まず、DNA切断を私たちの体の中で細胞はどうやって見つけるのかについては、DNA二本鎖切断を見つけるKuたんぱく質がある。Kuたんぱく質はドーナツのような形をしていて、ドーナツの穴がDNAに結合する場所になっているということで、DNAの端から私たちの体の中でDNA切断は見つけられており、輪っかを使ってDNAの端を探している。DNA二重鎖切断に関しては、さっきのKuたんぱく質とセットになって働くDNA-PKcsというたんぱく質があり、さらにMRNやATMというセンサー機能を持つたんぱくなどがある。かようにDNAの傷を発見し、それに応じて知らせるたんぱく質がある。その数は1,000種類ぐらいあることが分かっていて、もっと多いはずである。DNAに傷がついたり、特に切れたりしていると、いろいろなたんぱく質が協力し合い必要なたんぱく質を集めてくるのがセンサーの役割である。

これらのたんぱく質の中で重要なものは、Kuたんぱく質が連れてくるDNA-PKcsが損傷を教えるものの一つとして、XRCC4というたんぱく質があって、これはDNAをつなぐために非常に重要な役割を持っている。また、p53というがんの半分くらいで機能がおかしくなっていると言われている有名なたんぱく質があって、これがアポトーシス、あるいは、DNAの複製や分配とかDNAが切れているときは一旦治るまで停止という機能をもつたんぱく質もある。このように、DNAの損傷が起こったときには、センサーをはじめとして、検知から修復に至るまで体の中で起こる非常に精巧な機構があることが分かりつつある。

一方、このような分子メカニズムの解明が私たちの研究目標の一つであるが、その成果を役立てることも目的であり、その一つが放射線治療である。その中の一つは放射線感受性の予測である。同じ量の放射線が当たっても人によって影響は異なり、どれだけ治せるかは人によって違いがある。これが分かれば、一人一人に合わせた放射線治療、すなわち個別化医療に繋がる。もう一つは、放射線感受性の制御で、例えばがんに対する放射線治療効果を高めるような薬剤の開発などのきっかけになると考えられている。

これらの例として幾つかの例が紹介された。まず、さきほどのDNA二本鎖切断センサーのDNA-PKの機能はがんのリスクと関係があるということが分かってきている。健常者とがん患者の血液中のリンパ球の中にあるDNA-PK活性を調べた結果、活性はがん患者のほうが低い傾向がある。がんの種類ごとに調べると、特に子宮頸がんや乳がんでは低い傾向がわかってきた。海外では肺がんの患者で活性が低いと示されている。このような結果から、子宮頸がんや乳がんなどの発症にはDNA切断が関わる可能性と、DNA-PK活性がこれらのがんの予測指標の一つとなる可能性が考えられた。もう一つの例として、DNA損傷の修復に関わるたんぱく質にXRCC4があるが、その量は放射線治療の予後と関係があることを見いだした。がん治療の予後の無再発期間は、XRCC4が多いがんより少ないがんのほうが長くなる。XRCC4が少ないがんは再発しにくく、つまり放射線がよく効く傾向がある。この結果は例えばXRCC4などの修復たんぱく質の量から、予後の予測、そして、一人一人に合わせたがん治療への道が開けるのではないかと考えいる。さらに、放射線感受性を変えるということがある。DNA-PKという活性酵素の機能を阻害する物質が見つかっており、DNA-PKの機能を阻害すると細胞が放射線で死にやすくなるということで、がん治療効果が高まる可能性がある。

さらに、放射線には直接関係しないが、DNA-PK遺伝子に異常があるとどうなるか。この異常があるマウスや馬や犬は重症複合免疫不全という病気になる。B細胞、T細胞ができず、免疫機能がほとんどない。ヒトでもつい最近この病気が見つかっている。これらの症例から、DNA-PKは放射線などによるDNA二重鎖切断の修復だけではなく免疫系や神経系の発達や機能にも重要なことがうかがわれる。なぜ免疫系に関わるかというと、抗体を作るところに関わっている。私たちは体内で、ありとあらゆる細菌、ウイルスに対して抗体を作ることができる。抗体はたんぱく質なので、DNAの設計図を基に作られる。DNAの内の使うところを残して、不要なところを捨てしまう。つまり、DNAを切ってつなぎ合わせることになる。特別なハサミがあって、巧妙にDNAの抗体の遺伝子のところを切っている。切った後はDNAを繋ぐわけであるが、その機構は放射線で切れたDNAの場合と同じことをやっている。私たちの体はDNAをあえて自ら切ることによって高い免疫機能を獲得しており、その過程でDNA損傷センサーのDNA-PKが重要な役割を果たしている。 DNAのすばらしさを解説していただき、DNAがデオキシリボ核酸の略と同時に、Dはどんなときも、Nは何があっても、Aは諦めないということで講演が閉じられた。

講師のご紹介

松本 義久 先生 ()

東京科学大学 科学技術創成研究院ゼロカーボンエネルギー研究所 教授

プロフィール

東京科学大学 科学技術創成研究院 ゼロカーボンエネルギー研究所 教授

略歴

1970年鳥栖市生まれ。
鳥栖北小学校、久留米大学附設中学校・高等学校を経て、1993年東京大学理学部生物化学科卒業、1998年東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻博士課程修了、博士(理学)。東京大学大学院医学系研究科助手を経て、2006年12月から東京工業大学原子炉工学研究所准教授。組織改編により、科学技術創成研究院先導原子力研究所准教授、同研究院ゼロカーボンエネルギー研究所准教授を経て、2022年4月から教授。
2024年10月、大学統合により東京科学大学に。
趣味は、読書、映画鑑賞(2016年公開シン・ゴジラでは製作にも協力)、歩くこと。

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