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2021年1月16日
令和2年度 第4回量子医療研究会 テーマ:「BNCTおよび光免疫療法の最前線」

住友重機械のBNCTシステムNeuCureによるホウ素中性子捕捉療法のご紹介

増井 新 氏

住友重機械工業株式会社 産業機械事業部 主管

BNCTはがん細胞に中性子を吸収しやすい元素を取り込ませて、そこに中性子線を当てることで、がん細胞を選択的に破壊する治療法である。中性子を発生するために従来は大型の原子炉設備が必要だったが、住友重機械により加速器を応用した小型中性子発生装置が開発されたことで中性子利用の放射線治療に大きな革新をもたらすと考えている。

中性子の存在の証明は1932年で、まもなくその医療応用が提唱され、1950年代には実験用原子炉を使った脳腫瘍の治療がアメリカで最初に行われている。日本でも1968年に臨床研究が始まり、がん細胞に取り込まれやすいホウ素(Boron)化合物が開発され、これを用いた脳腫瘍の臨床研究が積み重ねられてきた。その研究拠点の一つ、京都大学原子炉実験所(大阪府泉南郡熊取町)では1975年から臨床治療を行っている。ホウ素中性子捕捉療法の研究はいまでは日本が世界の最先端を走っている。

BNCTは、まずホウ素化合物を点滴などによって患者に投与し、がん細胞がホウ素を選択的に取り込んだことが確認できた時点で、治療に適したエネルギーの中性子(熱中性子)を患者に照射するとホウ素と中性子が核分裂反応を起こし、ホウ素を含んだがん細胞が破壊されるというメカニズムである。ホウ素化合物について、ステラケミファ社(本社大阪市)がこれを実用化することで、BNCTは大きく前進した。

一方、原子炉を用いない小型の中性子発生装置が大きな課題であった。住友重機械はこれまでのPET(ポジトロン断層法)や陽子がん線治療システムのノウハウを活かし、小型のBNCT用加速器(サイクロトロン)を開発し、2012年秋からは京都大学原子炉実験所、ステラファーマ社と共同で、世界初となる加速器を用いたBNCT臨床試験を開始している。

BNCT治療システムNeuCure™、およびBNCT線量計算プログラムNeuCure™ドーズエンジンについて、2020年3月11日付けで、厚生労働省より新医療機器としての承認を取得し、6月1日付で保険収載されている。 現在、京都大学原子力実験所で進められている臨床試験に加え、2015年からは福島県郡山市の総合南東北病院での治験が開始している。大阪と福島におけるBNCTシステムの治験実績を積み重ねることで、がん治療先端医療の社会実装を進めて行きたい。

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