2021年1月16日
令和2年度 第4回量子医療研究会 テーマ:「BNCTおよび光免疫療法の最前線」
九州大学医学部放射線科 助教授
講師は九州大学病院において核医学領域の放射線診断および核医学治療に関する診療、臨床研究、医学生指導に従事している。主に分化型甲状腺癌に対する放射性ヨード内用療法、心臓核医学の領域をテーマに研究を行っている。また、近年注目を集めているPET/CTやSPECT/CTに関しても、その臨床および研究に携わっている。
講演では、講師が最近取り組んでいる近赤外光線免疫療法(NIR-PIT)について紹介された。光免疫療法では、IR700という水溶性のケイ素フタロシアニン化合物を結合させた抗体(抗体-IR700複合体)をがん細胞に結合させる。 抗体-IR700複合体を投与した後、近赤外光を照射すると、IR700の水溶性の軸配位子が外されて薬剤が凝集することで、薬剤が結合したがん細胞のみを殺すことができる。
しかし、近赤外線がどのように薬剤に作用して水溶性軸配位子の切断が起こるのか、また、この反応のスイッチは近赤外線でなくてはいけないのかは未解明である。IR700は励起状態になった後、システインなどの電子を与えやすい化学物質から電子を受け取り、「ラジカルアニオン」という状態になる。IR700のラジカルアニオン状態を作り出すことができれば、近赤外線を用いなくても抗体-IR700複合体を用いたがん治療が可能であることが解説された。今後、治療の適用範囲を飛躍的に拡大することが期待される。
講師の今後の研究として、食道がん、胃がん、子宮頚がん、乳がん等の適用を考えていることや、分子イ メージング技術を応用した光イメージング法を応用した治療について紹介された。