2020年12月19日
令和2年度 量子医療推進講演会 『先端AI医療、驚きの量子の世界』 ~量子科学はおもしろい~
量公益財団法人がん研究会 がんプレシジョン医療研究センター長
内閣府SIP「人工知能ホスピタル」プロジェクト ディレクター
人工知能(AI)を利用した医療には、何となく人間味ない冷徹な医療のイメージが浮かびそうであることに対して、講師から、内閣府の「AI ホスピタルプロジェクト」のゴールは、個々の患者さんに合わせた最先端で最適の医療(オーダーメイド医療)を提供しつつ、医療従事者の負担を減らし、そして、医師・看護師と患者・家族との心のつながりを深める医療であるとの解説があった。「がんプレシジョン医療」という言葉は難しいことのように聞こえるが、講師が20 年以上前から提唱してきた「オーダーメイド」医療とほぼ同義語である。
2015 年にオバマ前米国大統領が一般教書演説で「PrecisionMedicine Initiative」を掲げてから、「プレシジョン医療」という言葉が定着したが、そのゴールは「the right treatments at the right time, every time, to the right person」、すなわち、「必要な治療法を、必要であればいつでも、それを必要としている人に」である。これは、まさしく、講師の提唱してきた「オーダーメイド医療」の姿そのものといえる。
「プレシジョン医療」は、がんの予防・診断から新規の免疫療法まで、広い分野を包括するものである。がんは一般的には遺伝子に起こる異常が加齢により蓄積されていき、あるところからがんになると考えられるが、しかしなぜがんになるのかはわかっていない。
また、若年者にもがんができるのはなぜか、個人差があるのはなぜか、抗がん剤の効きにも個人差が大きいのはなぜか、一部の人には薬が他の人には毒になるのはなぜか等々、分かっていないことが多いのが実情である。がんを治す上で非常に重要なことはやはり早期発見で、そのためには新しいスクリーニング法や超早期治療法、的確な治療法、さらに新しい治療法がぜひとも必要である。医療技術は目覚ましいスピードで高度化・複雑化しており、それぞれの分野で先進化・多様化している。
一人の医師の人知を超えていることから、ここにAIの積極的な利用の必要性が出てくる。 AIを用いることとは、機械にできることは機械にやらせて、医師には患者に向き合う時間を広げることである。患者に思いやりをもって向き合うことができるようにするものである。研究が研究で終わるのではなく、患者さんに希望を提供し、そして、最終的にはご家族と一緒に笑顔を取り戻すことができるようにできることが講師の目標である。
量公益財団法人がん研究会 がんプレシジョン医療研究センター長
内閣府SIP「人工知能ホスピタル」プロジェクト ディレクター
ゲノム医療の第一人者で、「オーダーメイド医療」の提唱者。
本年9月、「クラリベイト・アナリティクス引用栄誉賞」が贈られたことから、ノーベル賞2020の最有力候補に。
現在、日本のAI ホスピタル推進のトップリーダー。
1977年大阪大学医学部卒業。大阪大学医学部付属病院外科並びに関連施設での外科勤務を経て、1984~1989年ユタ大学ハワードヒューズ研究所研究員、同医学部人類遺伝学教室助教授。1989~1994年(財)癌研究会癌研究所生化学部長。1994年東京大学医科学研究所分子病態研究施設教授。1995~2011年同研究所ヒトゲノム解析センター長。2005~2010年理化学研究所ゲノム医科学研究センター長(併任)。2011年内閣官房参与内閣官房医療イノベーション推進室長を経て、2012年4月シカゴ大学医学部内科・外科教授 兼 個別化医療センター副センター長。2018年7月財団法人がん研究会プレシジョン医療研究センター所長。
主な受賞:慶應医学賞、日本癌学会吉田富三賞、紫綬褒章など。