令和3年度 第1回量子医療研究会 講演2

核医学治療普及に求められること

金沢大学医薬保険研究域 医学系(付属病院副病院長)教授
一般社団法人日本核医学会理事長
絹谷 清剛 氏

核医学に対する大きな期待とともにこれを普及させる上で現実に直面する様々な障壁について解説いただいた。

核医学治療はいわゆる分子標的治療の1種である。Theranosticsは診断diagnosticsと治療thetapeuticsを合成した造語であり1990年代末に創られた。見ながら治療が出来るのは核医学のみである。効果予測、判定、有害事象予測もできることから大変優れている。

日本は法体系の複雑さにより適用が遅れており、国際的なグローバル第III相治験に入ることができない実情がある。金沢大学でも新しい177Lu標識薬の治験に入っているが、欧州諸国に比べて3年以上遅いのが実情。

前立腺がんはすぐれたマーカーの存在により患者数が急増している。治療が難しい去勢抵抗性がんについて、再発診断におけるPSMAのPET-CTによる検出率向上の顕著な例が紹介された。現在、米・豪・ブラジルで承認されており、近々の欧州を始めとして世界的にCTやMRIに代わる標準検査法として認知されてきている。この技術により、転移の少ない段階で検出できるようになっている。日本では阪大や京大で医師主導治験として行われているのみであり、最近金沢大でも進められている。

ベータ線核種からα線核種を用いた標識薬はより効果的な働きをすると期待され、画期的な症例が出始めている。さらに、がん細胞の破壊を契機としてがん免疫機能が向上し、転移部や離れた場所にあるがんも死滅するという、いわゆるアブスコパル効果と呼ばれる機構が推察される結果が認められる。このような治療効果が認識されるにつれて、世界で核医学治療に対する期待が大きくなり、米国では5年後には現状の3倍に達する予想がなされている。

核医療普及に纏わる問題点が詳細に解説された。まず、放射性核種の供給問題がある。西郷輝彦氏が豪州でAc225治療を受けたことを例として、国内供給の問題が語られた。日本メジフィジックスが千葉でQSTとともに製造・供給を意図した活動を開始したこと、日立製作所が東北大・京大とともにAc225製造を開始することがプレスリリースされているが、大学と企業との連携事業に丸投げ状態である。対して米国では1950年代から国家主導で進められており、EUやカナダ、豪州も同様である。日本では学術会議が2008年7月に検査用各種の開発を表明し、一社)日本医用アイソトープ開発準備機構(JAFMID)が治療用放射性核種を作る事業を厚労省や経産省等の関係官庁を巻き込んで着手。これを受けて各医科学会と患者会が共同でAc225製造を文科省に掛け合い、高速実験炉「常陽」の利用を要請したが届かず。今年度、一社)全国がん患者団体連合会(全がん連)が厚労省・文科省・経産省に要請し、政府から取り組みを確約され、今年度補正予算で医療用RI製造に向けて予算確保された。学術会議もアスタチン製造に向けた取り組みを答申し、日本でも遅ればせながらようやく本格的にスタートしたところである。

また、治療体制については、2017年10月の第3期がん対策推進基本計画で国がRI内用療法の推進とがん診療連携拠点病院等の整備が明記された。しかし、管理区域となる病室はほとんどなく、2021年8月、「特別な措置を講じた病室に係る基準、管理・運用及び行動規範に関するマニュアル」が厚労省検討会で答申、一般病室に設置して利用する道が開いた。ただし従事者の問題点がクローズアップされた。治療においては、患者・家族・患者会・核医学医・臨床医・加速器オペレータ・化学者・看護師・診療放射線技師・管理栄養士・薬剤師・医学物理士・医療事務員等の連携が必須であるが、現状は放射線治療医だけが関わっているのが実情で、実施への障壁が高い。また、核医学専門技師認定者、核医学治療看護師も不足している。一方、核医学セラノスティクスで線量計算について、欧米では医学物理士が従事しており、日本でも認定されてはいるが、国家資格ではなく、放射線医が担当していて手が回らない状況。核医学認定薬剤師もほとんどおらず、非常に厳しい状況である。しかし、不断の努力が必要である。

最後に、「advocacy(社会的な弱者の権利を擁護)」について触れられ、本研究会参加者へ協力要請と、核医学診療推進国民会議(2016年12月設立、代表 絹谷清剛)への参加が要請された。今年9月京都で第13回世界核医学会開催が紹介された。

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