令和3年度 第1回量子医療研究会 講演1

核医学セラノスティックと今後の期待

大阪大学医学系研究科 医学専攻
助教
渡部 直史 氏

講師は臨床を担当しながら核医学の臨床応用を進めており、新しい放射線核種をどのようにして臨床に持ち上げてきたかについて、数々の障壁を乗り越えた苦心談を交えてその具体的方策を紹介していただいた。β線核種に比べて格段の生体反応性を有するα線核種であるアスタチンについて、阪大における我国初の治験開始(昨年末から)の経緯を解説いただいた。

アスタチン治験開始までの背景として、甲状腺がんの患者数は18636人/年であり、治療は手術全摘とヨウ素131(131I)内用療法が標準的となっている。この中で、標準的な131I治療では効果不十分な人がいる。β線核種の131Iの代わりにα線核種であるアスタチン211At(半減期7.2時間)を阪大で作製して応用を進めた。

阪大における治験への過程を懇切に紹介された。2019年3月のPMDA相談(毒性試験)から始まり、順次PDMAの指導下でステップを踏み、2010年10月に国際的なガイドラインがまだない中で一般的な抗がん剤の毒性試験に沿って阪大ラジオアイソトープ総合センターで毒性試験を実施した。2020年12月には体表面積換算を考慮の上、安全性を考慮して慎重に初回投与を決定した。次に、適正使用マニュアルの作成を進め、医療法における安全管理と退出基準に関する検討を行い、このマニュアルは日本核医学会の承認が得られた

治験薬の製造については、現状では阪大病院での院内製造を選択したが、RI法や医療法、労基法等の様々な法規制の問題を解決する必要があった。今後のアスタチンの供給体制については、現状では国内5カ所(東北大、量研機構、理研、量研機構高崎、阪大)で製造が可能であり、国内のネットワーク体制を構築している。治験薬の製造は阪大のPET治験薬エリアで標識合成し、院内薬剤師による調整を行っている。注射液の品質試験はQSTでパスし、現在は最低放射線量で製造を行い、順次高レベルにトライして行く予定である。

難治性甲状腺がんに対するアスタチンの医師主導治験の状況が紹介された。阪大倫理委員会承認後、PMDAへ治験届提出(21年10月20日)、R3-5年度 AMED臨床研究治験推進事業(ステップ2)で実施中である。2021年12月中旬~2024年3月で治験開始した。

医薬品としての実用化については、医薬品工場を全国2~7カ所に整備したいと考えており、アルファフュージョン(株)(阪大ベンチャー)を設立して、大手製薬会社へ移転活動を開始しつつアスタチン標識薬の拡大を目指している。

最後に今後の展望について解説された。アスタチン標識約を免疫チェックポイント療法との組み合わせとして阻害剤(オブジーボ等)との併用や、がんゲノム医療と組み合わせてがん種ごとに治療薬の開発が可能になることを幾つかの具体例をもとに解説された。脳腫瘍やすい臓がん、悪性黒色腫のモデルマウスでの顕著な治療効果について紹介された。さらにアスタチン標識薬によるがん間質(FAPI)について、種々のがんに効果があることが紹介された。 最後に核医学における人材育成について述べられた。放射線科の中に放射線診断と放射線治療があるが、核医学は横断的な分野である。現状では放射線診断の中で取り組むことが多いが、診断に留まる人が多いように思われる。将来的に治療分野への拡大のモチベーションを高めて行きたい。

PAGE TOP