令和2年度 第3回量子医療研究会 講演2

触媒の発見から製品化、国プロジェクトの立案と実行、化学産業の未来

産総研 材料・化学研究領域 触媒化学融合研究センター 研究センター長
産総研・筑波大 食薬資源工学  オープンイノベーションラボラトリー ラボ長
佐藤 一彦 氏

触媒は化学品製造技術の要であり、持続可能な開発目標(SDGs)を達成するためのキーテクノロジーである。同センターでは目的達成のために5つの戦略課題【ケイ素化学技術】、【革新的酸化技術】、【官能基変換技術】、【製造プロセス技術】及び【ケミカルリサイクル技術】を設定し、ツールとしてセンターが運営する「フロー精密合成コンソーシアム(FlowST)」および「生物資源と触媒技術に基づく食・薬・材創生コンソーシアム(食・触コンソーシアム)」を活用して、企業連携の拡大と深化、産業界や学界への発信を行っている。

個別課題として、「ケイ素化技術では、有機ケイ素材料を高効率・高選択的に製造するための触媒技術開発を中心に、平成24年度より10年間の計画で開始された経済産業省未来開拓研究プロジェクト「有機ケイ素機能性化学品製造プロセス技術開発」の推進に努めている。このプロジェクトでは砂を原料に効率的に有機ケイ素原料を製造する触媒技術、有機ケイ素原料から高機能材料を製造するための、高効率・高選択的触媒技術の開発に取り組んでいる。「革新的酸化技術」では、石油やバイオマスなど各種資源から有用化学品を製造する際に不可欠で、最も基本的な物質変換技術の一つである酸化反応に焦点を当て、産業界でこれまで問題となっていた酸化反応における酸化剤に由来する廃棄物の処理コストや高エネルギー消費型反応であること、など、環境への負荷が高い問題の解決を目指している。酸化剤のなかでも環境適合性の高いもの、具体的には空気や過酸化水素を使った、汎用性の高い革新的な酸化反応の確立を目指して、さまざまな新規触媒や新規触媒反応を開発することで、クリーンかつ実用性の高い酸化技術を開発している。フッ素化学技術としては合成が特殊でプロセスとして難度の高いフッ素化学品の製造方法の開発、窒素化学技術としては難燃性のNH3燃料の持つ有害な『窒素酸化物(NOx/N2O)を生成』問題を解決するための技術窒素化学技術、および二酸化炭素を有用な化学原料や燃料に変換する触媒開発を行っている。「官能基変換技術では、物質を構成する分子の骨格や官能基により発現する様々な特性や機能について、分子の骨格や官能基の変換や新たな官能基を付加することにより、物質に新たな機能を与え、有用な化学品を合成することが可能になる。ここでは、触媒技術による(1)セルロース等のバイオマス原料からの有用化学品合成、(2)小分子の環境調和型付加反応、(3)高機能材料開発の三分野を中心に、基礎的な反応の開発からそれを応用した材料開発まで取り組んでいる。「製造プロセス技術」としては、砂や燃焼灰からケイ素化学産業の基幹原料の直接製造、S,Se,Te,Pのヘテロ原子化合物の合成法の開発、機能性リン化合物と含リン機能性材料の開発、マイクロ波化学反応の開発、シラノール類の新規合成法開発、およびシリコーン (ポリシロキサン) の精密合成技術等に取り組んでいる。「ケミカルリサイクル技術」では、「触媒固定化技術」に関係する様々な化学品を高効率、高品質かつ低環境負荷で製造するための分子触媒の固定化・リサイクル技術の開発や、触媒の低コスト化、省資源のための貴金属代替・省量化技術の開発に取り組んでおり、二酸化炭素からの有用化学品製造技術や有機ケイ素化学品の高効率製造技術の開発も合わせて行っている。

社会へ向かう研究の場合、発明・発見から企業との共同研究による実用化、さらには他機関や企業を巻き込んだ連携構築や国プロジェクトの立案・実行、そして社会課題の解決へとつながればその分野は発展し、さらに多くの研究者が集まるようになる。本講演では化学分野で経験した各々の段階での困難な点と、他機関や企業を巻き込んで新しい組織や流行をつくって来た点などを中心に紹介された。

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